二つの集合 $M, N$ と $\mathit{\Gamma}\subset M\times N$ の三つ組 $\mathfrak{G} := (M, N, \mathit{\Gamma})$ を結合構造という.
$M$ の元を点, $N$ の元を直線と呼び, $(p, l)\in\mathit{\Gamma}$ であることを $p$ は $l$ の上にある, あるいは $l$ は $p$ を通る, と表現する.
結合構造 $\mathfrak{G} = (M, N, \mathit{\Gamma})$ が以下の公理を満たすとき, これを射影平面という.
異なる二点 $p, q\in M$ に対して $(p, l)\in\mathit{\Gamma}$ かつ $(q, l)\in\mathit{\Gamma}$ となるただ一つの $l\in N$ を $p\vee q$ で表す.
また, 異なる二直線 $l, m\in N$ に対して $(p, l)\in\mathit{\Gamma}$ かつ $(p, m)\in\mathit{\Gamma}$ となるただ一つの点 $p\in M$ を $l\wedge m$ で表す.
一つの直線は少なくとも三つの点を含む.
どの三点も同一直線上にないような四点 $p, q, r, s$ を取る. $$l := p\vee q, m := p\vee r, n := p\vee s$$ は相異なる三直線である.
任意に直線 $g$ を取るとき, もし $g$ が $p$ を通らなければ, $g$ は $g\wedge l, g\wedge m, g\wedge n$ の三点を含んでいる.
$g$ が $p$ を通る場合でも, 点の集合 $$\{g\wedge (q\vee r), g\wedge (r\vee s), g\wedge (s\vee q)\}$$ は少なくとも異なる二点を含むから結局 $g$ は $p$ と合わせて少なくとも三点を含む.
(証明終)
どの三直線も一点で交わらない四直線(このような四直線を四辺形という)が存在する.
公理 3 によりどの三点も同一直線上にない四点が存在するので, それを $p, q, r, s$ とする. このとき四直線 $p\vee q, q\vee r, r\vee s, s\vee p$ は どの三直線も一点で交わらない.
仮に $p\vee q, q\vee r, r\vee s$ が一点で交わるとして, それを $t$ とすれば直ちに $t = q$ かつ $t = r$ が分かるので $q = r$ となり矛盾する. 他の組み合わせの場合も同様である.
(証明終)
$l\in N$ に対し $$S(l) := \{p\in M | (p, l)\in\mathit{\Gamma}\}\subset M$$ とおく. 定理 1 により $l = m\iff S(l) = S(m)$ であることが保証される. また $l\wedge m = S(l)\cap S(m)$ である. これにより $l\in N$ は自然に $S(l)\subset M$ と同一視できるので, 以下は両者を同一視して考える.
$S\subset M$ が面であるとは $$p, q\in S, p\ne q \Longrightarrow p\vee q\subset S$$ であることをいう.
空集合 $\emptyset$, 一点 $\{p\}$, 直線 $l$, $M$ 自身は面である.
$A, B\subset M$ に対し $A$ と $B$ の結(join) $A\vee B$ を $$A\vee B := \{x | \exists(a\in A, b\in B, a\ne b)(x\in a\vee b)\}$$ とする. ただし $\emptyset\vee A = A\vee\emptyset = A$ と約束する.
射影平面の面の全体は上記の結を join, および集合としての交わりを meet として modular 束になる. 詳細は省略する. 一般的な射影幾何学のテキストを参照されたい. 大切な事実は以下のことである.
$p\in M, l, m\in N$ に対して $$\{p\}\vee l = \begin{cases} l & (p\in l) \\ M & (p\not\in l), \end{cases}$$ $$l\vee m = \begin{cases} l & (l = m) \\ M & (l\ne m), \end{cases}$$ $$\{p\}\vee M = l\vee M = M.$$
さほど難しくないので演習問題とする.
ここでは平面(次元 2)に限定せず一般の次元で考える. なお, この項は束論の知識を前提とするので, 難しい場合は読み飛ばしても構わない.
$\mathfrak{G}$ が射影空間であるとき, $\mathfrak{G}$ の面全体 $L(\mathfrak{G})$ は高さ有限の単純可補 modular 束である. 一般に高さ有限の単純可補 modular 束 $L$ があるとき, $L$ の原子元の全体を $M$, 原子元の上に素である元の全体を $N$ とし, $p\prec l$ であるような $(p, l)\in M\times N$ の全体を $\mathit{\Gamma}$ とすれば $$\mathfrak{G}(L) := (M, N, \mathit{\Gamma})$$ は射影空間であり $$\mathfrak{G}(L(\mathfrak{G}))\approx\mathfrak{G}, L(\mathfrak{G}(L))\approx L$$ が成り立つ.
$L(\mathfrak{G})$ の双対束を $L(\mathfrak{G})^*$ で表すとき $$\mathfrak{G}^* := \mathfrak{G}(L(\mathfrak{G})^*)$$ のことを双対射影空間という. 上記の事実から明らかに $L(\mathfrak{G}^*)\approx L(\mathfrak{G})^*$ である.
射影平面(射影空間の次元が 2)の場合に限れば, $$\mathfrak{G} = (M, N, \mathit{\Gamma})$$ のとき $$\mathit{\Gamma}^{-1} := \{(l, p)\in N\times M | (p, l)\in \mathit{\Gamma}\}$$ と定義すれば $$\mathfrak{G}^*\approx (N, M, \mathit{\Gamma}^{-1})$$ が成り立つ.
射影平面に対して成り立つ命題を双対射影平面で考えることにより, ある命題の点と直線, 交わりと結を入れ替えた双対命題が成り立つ(双対原理).