分配束と特徴づけ

定義

一般の束において

は常に成り立っていることは既に見た.

定理2

束 $\mathcal{L}$ において

のうちいずれか一つが成り立てば $\mathcal{L}$ はモジュラー束である. なおかつ D1, D2, D3 が全て成り立つ.

(証明)

D1 が成り立てば M1 が成り立ち, D2 が成り立てば M2 が成り立ち, D3 が成り立てば M3 が成り立つ. 故に $\mathcal{L}$ はモジュラー束である.

以下, より精密に以下のことを証明する.

モジュラー束 $\mathcal{L}$ において D1, D2, D3 のいずれかを満たす $x, y, z$ は他も満たす.

簡便のため, $x, y, z$ が D1 を満たすことを $\mathrm{D}_1(x, y, z)$ のように書く.

モジュラー束であることを使えば, $\mathrm{D}_1(x, y, z)$ を仮定すれば $$\begin{align} (y\cap x)\cup(y\cap z) &= y\cap(x\cup(y\cap z)) \\ &= y\cap(x\cup y)\cup(x\cap z) \\ &= y\cup(x\cap z) \end{align}$$ ゆえ $\mathrm{D}_1(x, y, z)\Longrightarrow\mathrm{D}_2(y, z, x)$ である. 双対的に $\mathrm{D}_2(x, y, z)\Longrightarrow\mathrm{D}_1(y, z, x)$ である.

以上の操作をちょうど 3 回行えば $$\mathrm{D}_1(x, y, z)\Longleftrightarrow\mathrm{D}_2(x, y, z)$$ が得られる.

$\mathrm{D}_1(x, y, z), \mathrm{D}_2(x, y, z)$ を仮定すれば $$\begin{align} (x\cap y)\cup(y\cap z)\cup(z\cap x) &= (y\cap z)\cup(x\cap (y\cup z)) \\ &= ((y\cap z)\cup x)\cap(y\cup z) \\ &= (y\cup x)\cap(z\cup x)\cap(y\cup z) \end{align}$$ だから $$\mathrm{D}_1(x, y, z), \mathrm{D}_2(x, y, z)\Longrightarrow\mathrm{D}_3.$$ 逆に D3 を仮定すれば $$\begin{align} x\cup(y\cap z) &= x\cup(x\cap y)\cup(y\cap z)\cup(z\cap x) \\ &= x\cup((x\cup y)\cap(y\cup z)\cap(z\cup x)) \\ &= x\cup((y\cup z)\cap((x\cup y)\cap(x\cup z))) \\ &= (x\cup y\cup z)\cap(x\cup y)\cap(x\cup z) \\ &= (x\cup y)\cap(x\cup z) \end{align}$$ から $\mathrm{D}_1(x, y, z)$ が成り立つ.

(証明終)

特徴づけ

定理3

$\mathcal{L}$ はモジュラー束であるとする. このとき $\mathcal{L}$ が分配束であるの必要十分条件は, $\mathcal{L}$ が以下の Hasse 図で表される部分束を持たないことである.

分配的でない束の Hasse 図

(証明)

図のような部分束があれば $$a\cup(b\cap c) = a\cup e = a\lt f = f\cap f = (a\cup b)\cap (a\cup c)$$ となるので $\mathcal{L}$ は分配的でない.

逆に $\mathcal{L}$ がモジュラー束で, 分配的でないとすれば $$(x\cap y)\cup(y\cap z)\cup(z\cap x)\lt(x\cup y)\cap(y\cup z)\cap(z\cup x)$$ となる $x, y, z$ が存在する. この式の左辺を $e$, 右辺を $f$ と置く.

$$\begin{eqnarray} a & = & (y\cap z)\cup(x\cap(y\cup z)) & = & ((y\cap z)\cup x)\cap(y\cup z), \\ b & = & (z\cap x)\cup(y\cap(z\cup x)) & = & ((z\cap x)\cup y)\cap(z\cup x), \\ c & = & (x\cap y)\cup(z\cap(x\cup y)) & = & ((x\cap y)\cup z)\cap(x\cup y) \end{eqnarray}$$ と置く. それぞれの後半の等号はモジュラー律から導かれる.

単調性とモジュラー律から $$\begin{align} a\cap b &= ((y\cap z)\cup x)\cap(z\cup x)\cap(y\cup z)\cap((z\cap x)\cup y) \\ &= ((y\cap z)\cup x)\cap((z\cap x)\cup y) \\ &= (y\cap (x\cup (y\cap z)))\cup(z\cap x) \\ &= (y\cap x)\cup(y\cup z)\cup(z\cap x) = e. \end{align}$$ 同様にして $$\begin{eqnarray} a\cap b & = & b\cap c & = & c\cap a & = & e, \\ a\cup b & = & b\cup c & = & c\cup a & = & f \end{eqnarray}$$ となる. このとき $a, b, c$ はどの二つも比較不能である. 事実, $a\le b$ と仮定すると $$\begin{align} a\le b &\Longrightarrow f = a\cup b = b \\ &\Longrightarrow c\le b\cup c = b \\ &\Longrightarrow e = b\cap c = c \end{align}$$ で $e = c$ が成り立つ. 一方で $a\le b$ から $e = a\cap b = a$ も成り立つので $a = c$ となり, $f = a\cup a = a$ が成り立つから $e = a = f$ となって矛盾してしまう. 他も同様に矛盾する. かくして $\{e, a, b, c, f\}$ は定理の Hasse 図を満たす部分束であることがわかった.

(証明終)

戻る