これは Math Advent Calendar 2023 の 9 日目の記事です.
有限体 $\mathbb{F}_q$ の単数群 ${\mathbb{F}_q}^\times = \mathbb{F}_q \setminus \{0\}$ は $(q - 1)$ 次の巡回群になることが分かっています. 今回はいくつか具体例を計算してみたいと思います.
$\mathbb{Z}/3\mathbb{Z}$ は体になります. これを $\mathbb{F}_3$ と表すことにします. $\mathbb{F}_3$ 係数の多項式 $x^2 + 1$ は既約です. 従って $\mathbb{F}_3[x]/(x^2 + 1)$ は体になります. これを $\mathbb{F}_9$ と表すことにします. 実際, $x^2 + 1$ の根の一つを $\alpha$ とおくと, $\mathbb{F}_9$ は $\langle 1, \alpha \rangle$ を基底とする $\mathbb{F}_3$ 上の 2 次元のベクトル空間になります. すなわち $[\mathbb{F}_9 : \mathbb{F}_3] = 2$ です.
さて, 冒頭で述べた通り, ${\mathbb{F}_9}^\times$ は 8 次の巡回群になるはずです. しかし $\alpha$ はこの巡回群の生成元にはなっていません. 何故なら $\alpha^4 = 1$ となってしまうからです. だから何だ, と思われるでしょうが, やはり生成元を知りたくなりますよね.
そこで, ${\mathbb{F}_9}^\times$ の生成元を求めるために, 円分多項式を活用します. 今回は 1 の原始 8 乗根を求めたいので $$\varPhi_8(x) = x^4 + 1$$ を使います. ただしこの多項式は $\mathbb{F}_3$ 係数では既約ではなく \begin{align} x^4 + 1 &= x^4 - 2x^2 + 1 - x^2 \\ &= (x^2 - 1)^2 - x^2 \\ &= (x^2 + x - 1)(x^2 - x - 1) \end{align} と因数分解できます. そこで, 二つの 2 次式のうち片方, 今回は $x^2 + x - 1$ を採用することにしましょう. \begin{align} x^2 + x - 1 &= x^2 - 2x + 2 \\ &= (x - 1)^2 + 1 \end{align} なので $$\mathbb{F}_3[x]/(x^2 + x - 1) \cong \mathbb{F}_3[x]/(x^2 + 1) = \mathbb{F}_9$$ となります. そこで $x^2 + x - 1$ の根の一つを $\beta$ とおけば, これは $\mathbb{F}_9$ における 1 の原始 8 乗根ですから ${\mathbb{F}_9}^\times$ の生成元となります. ちなみに, $x^2 + x - 1$ のもう一つの根は $\beta^3$ と表せます. さらに, 同型対応から明らかに $\beta = 1 + \alpha$ ですから, 実は $1 + \alpha$ が ${\mathbb{F}_9}^\times$ の生成元であると分かりました.
もう一つ, 実例として $\mathbb{F}_5 (= \mathbb{Z}/5\mathbb{Z})$ の 2 次拡大体 $$\mathbb{F}_{25} = \mathbb{F}_5[x]/(x^2 + 2)$$ の単数群 ${\mathbb{F}_{25}}^\times$ を考えてみます($x^2 + 1 = x^2 - 4 = (x - 2)(x + 2)$ は $\mathbb{F}_5$ 係数で既約でないことに注意!). ここでも, $x^2 + 2$ の根の一つを $\alpha$ とおくと $\alpha^8 = 1$ なので, やはり $\alpha$ は生成元にはなっていません. そこで円分多項式 $$\varPhi_{24}(x) = x^8 - x^4 + 1$$ を利用します. $\mathbb{F}_5$ 係数においては \begin{align} x^8 - x^4 + 1 &= x^8 - 2x^4 + 1 - 4x^4 \\ &= (x^4 - 1)^2 - (2x^2)^2 \\ &= (x^4 + 2x^2 - 1)(x^4 - 2x^2 - 1) \\ &= (x^4 - 4x^2 + 4 - 4x^2)(x^4 + 4x^2 + 4 - x^2) \\ &= ((x^2 - 2)^2 - (2x)^2)((x^2 + 2)^2 - x^2) \\ &= (x^2 + 2x - 2)(x^2 - 2x - 2)(x^2 + x + 2)(x^2 - x + 2) \end{align} と因数分解でき, \begin{align} x^2 - 2x - 2 &= x^2 - 2x + 3 \\ &= (x - 1)^2 + 2 \end{align} なので $$\mathbb{F}_{25} \cong \mathbb{F}_5[x]/(x^2 - 2x - 2)$$ が成り立ちます. $x^2 - 2x - 2$ の根の一つを $\beta$ とすれば, これが ${\mathbb{F}_{25}}^\times$ の生成元であり, かつ同型対応から $\beta = 1 + \alpha$ が分かります.
円分多項式ってこういう使い方もできるんだな, ということを知ってもらえれば幸いです.
赤猫堂本舗「数学に関するよしなしごと」へ(鋭意建設中)