位数 8 の群を分類してみよう

これは Math Advent Calendar 2020 の 20 日目の記事です.

今回は位数が 8 の群, すなわち有限群 $G$ で $|G| = 8$ であるもの(の同型類)を分類してみたいと思います. 割と基礎的な群論の知識(Sylow の定理を除く)だけで行えるので, 有限群論の良いおさらいにもなると思います.

可換群の場合

この場合, Abel 群の基本定理を用いて, 以下の 3 通りのパターンに絞られることがわかります. なお位数 $n$ の巡回群を $C_n$ で表しています.

非可換群の場合

まず, 位数 8 の元は存在しないこと, また, 位数 4 の元が存在することがわかります(単位元を除く全ての元の位数が 2 であるような群は可換です).

そこで, 位数 4 の元 $x \in G$ を一つ取ることにしましょう. $x$ が生成する巡回部分群 $N = \langle x \rangle$ を考えることができますね.

$N$ の指数は $[G : N] = |G|/|N| = 2$ です. 指数が 2 であるような部分群は常に正規部分群であることがわかります(証明は難しくありませんので割愛します).

$G$ の元で, $N$ に含まれない元 $y \in G \setminus N$ を一つ取ってみましょう. すると, 集合として$$G = N + yN = yN + y^2 N$$であるとわかります(非交和(disjoint)を $+$ で表しました). つまり $y^2 N = N$ であり, $y^2 \in N$ がわかります.

また, $y$ は$$N \ni x \mapsto y^{-1}xy \in N$$という形で $N$ の自己同型を導きます. $x$ の位数は 4 であったこと, また, 非可換の仮定を踏まえると, $y^{-1}xy = x^{-1}$ のみが考えうるパターンです.

あとは $y^2 \in N$ がどれになるかによって, 以下の 2 パターンに絞られることがわかります.

このうち $D_8$ は二面体群と言われるもので, 先ほどの $N = \langle x \rangle$ と $H = \langle y \rangle$ の半直積 $N \rtimes H$ として表せます.

$Q_8$ は二つの群の半直積として表すことができず, 四元数群と呼ばれています. ちなみに, この表示で $x$ の位数がちゃんと 4 になることは以下のようにしてわかります.

$$\begin{align} x^{-2} &= (y^{-1}xy)^2 \\ &= y^{-1}x^2 y \\ &= y^{-1}y^2 y \\ &= y^2 \\ &= x^2, \end{align}$$ つまりは $x^2 = x^{-2}$ となり, $x^4 = 1$ が導かれます. 当然ですが, $y$ の位数も 4 です.

ちなみに, 「四元数群」の名の由来は, 代数学で有名な四元数斜体に由来します. 複素数体 $\mathbb{C}$ に, 新たに$$j^2 = - 1, ij = - ji$$となるような($i$ は $\mathbb{C}$ の虚数単位)元 $j$ を付け加えることで, 積の可換性が失われるものの, 0 以外のすべての元が積についての逆元を持つような「四元数斜体」と呼ばれるものを作ることができます.

$k := ij$ と定義して, この四元数斜体から$$\{ \pm 1, \pm i, \pm j, \pm k \}$$の 8 個の元だけ取り出すと, これがちょうど四元数群になるのです.

ちなみに, 本題からは逸れますが, この四元数斜体, 意外なところでは球面のトポロジーにも深い関りがあります.

位数が素数のべき乗, 特に 2 のべき乗(今回であれば $8 = 2^3$)であるような群の同型類を決定するのは難しく, Sylow の定理も使えないなどの制約がありますが, 位数の小さいものについては具体的な同型類が確定しているようです. 将来的にはその辺りも調べられたら嬉しいですね.

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