これは 好きな証明 Advent Calendar 2018 21日目の記事です.
数学においては「全ての証明が尊い」と思っています. それは, 証明とは全て「真実を明らかにすること」だと思っているからです. ですが, そんな中でも結果が非常にシンプルで美しいと思うものを, 今回はご紹介します.
Möbius 関数 $\mu(m)$ は $$\sum_{d | m} \mu(d) = [m = 1]$$ で定義されます. ここに, $[P]$ とは命題 $P$ が成り立つとき $1$, そうでないとき $0$ を表すものとします. $$\mu(1) = 1, \mu(2) = - 1, \mu(3) = - 1, \mu(4) = 0, \mu(5) = - 1, \mu(6) = 1, \dots$$ です.
数列 $\langle g_1, g_2, \dots \rangle$ の Dirichlet 母関数 $\tilde{G}(z)$ とは $$\tilde{G}(z) = \sum_{n = 1}^\infty \frac{g_n}{n^z}$$ のことを言います.
正の整数を引数に取る関数 $f(m)$ が乗法的であるとは $$f(1) = 1, m_1 \perp m_2 \Longrightarrow f(m_1 m_2) = f(m_1)f(m_2)$$ が成り立つことを言います.
$$g(m) = \sum_{d | m} f(d)$$ なる関係があるとき, $f$ が乗法的ならば $g$ も乗法的になりますが, その逆が成り立ちます. これを帰納法で証明します. $f(1) = g(1) = 1$ なので, 帰納法の基底が成り立ちます. $m \gt 1$ として $m_1 m_2 \lt m$ に対して $f(m_1 m_2) = f(m_1)f(m_2)$ が成り立つとすると, $m_1 m_2 = m$ のとき $$\begin{align} g(m_1 m_2) &= \sum_{d | m_1 m_2} f(d) \\ &= \sum_{d_1 | m_1} \sum_{d_2 | m_2} f(d_1 d_2) \\ &= \sum_{d_1 | m_1} \sum_{d_2 | m_2} f(d_1)f(d_2) - f(m_1)f(m_2) + f(m_1 m_2) \\ &= g(m_1)g(m_2) - f(m_1)f(m_2) + f(m_1 m_2) \end{align}$$ なので $g$ が乗法的であることから $f(m_1 m_2) = f(m_1)f(m_2)$ となる.
Möbius 関数の定義において $[m = 1]$ は明らかに乗法的ですから, このことから $\mu$ も乗法的であることがわかります.
$$g(m) = \sum_{d | m} f(d) \iff f(m) = \sum_{d | m} \mu(d)g\left(\frac{m}{d}\right)$$
数列 $\langle f_1, f_2, \dots \rangle$ の Dirichlet 母関数を $\tilde{F}(z)$, 数列 $\langle g_1, g_2, \dots \rangle$ の Dirichlet 母関数を $\tilde{G}(z)$ とするとき $$\begin{align} \tilde{F}(z)\tilde{G}(z) &= \sum_{l, m \ge 1} \frac{f_l}{l^z} \frac{g_m}{m^z} \\ &= \sum_{n \ge 1} \frac{1}{n^z} \sum_{l, m \ge 1} f_l g_m [lm = n] \\ &= \sum_{n \ge 1} \frac{1}{n^z} \sum_{d | n} f_d g_{n/d} \end{align}$$ なので, Dirichlet 母関数の積は畳み込み $$h_n = \sum_{d | n} f_d g_{n/d}$$ に相当します.
Möbius 関数の Dirichlet 母関数を $\tilde{M}(z)$ とするとき, Möbius 関数の定義式を $\langle \mu(1), \mu(2), \dots \rangle$ と $\langle 1, 1, \dots \rangle$ の畳み込みと考えると $$\tilde{M}(z)\zeta(z) = 1$$ がわかるので, $\tilde{M}(z) = \zeta(z)^{-1}$ となります. つまり Möbius 関数の Dirichlet 母関数は Riemann の zeta 関数の逆数ということになります.
赤猫堂本舗「数学に関するよしなしごと」へ